1. HOME
  2. Topics
  3. 【旬の研究シリーズ】ウイルス組換えは養豚場で起こっている

Topics

【旬の研究シリーズ】
ウイルス組換えは養豚場で起こっている

生物が進化していくようにウイルスも進化しています。私たちは日本の養豚場の豚から進化過程にあるウイルスを発見しました。進化しているところを目の当たりにできるなんて、興奮しますね。私たちがどんなウイルスを発見したかをご紹介します。

・ウイルスのダイナミックな進化はゲノムの組み換えで起こる
・私たちの研究は「ウイルスの進化を目の当たりにしている」
・ウイルスの進化を予測できる研究に発展する可能性を秘めている

新型コロナウイルスの感染拡大がとまりません。そして、新型コロナウイルスの変異が病原性を強めるのではないか、と話題になっています。ここでいう変異とは「点変異」を指しています。つまり、ウイルスゲノムの数か所の塩基が別の塩基に置き換わり、その結果蛋白質も少し変わるのです。しかし、「点変異」はウイルスを大きく変える可能性は低いのが現実です。ウイルスが大きく変身するためには、他のウイルスや生物のゲノムから遺伝子の一部を奪い取る必要があります。これを「組み換え」といいます。
私たちが発見したウイルスは、簡単にいうとピコルナウイルスのゲノムの中にコロナウイルスのゲノムの一部が挿入された組み換えウイルスです。この発見は100年に1度?1000年に1度のことかもしれません。何がそんなに驚くべきことなのでしょう?ピコルナウイルスとコロナウイルスは別々の「科」に属しています。わざと大げさに書きますが、ピコルナウイルス科とコロナウイルス科はネコ科とイヌ科くらいの違いがあるのです。
この研究の面白さはどこにあるのでしょうか。まず、この組み換えが豚農場で起こっていることです。実験室で起こっているのではありません。むしろ実験的に組み換えを起こす方が難しいかもしれません。次に、私たちは1000年に1度の大イベントに遭遇してしまっていると言えます。こんな研究者冥利に尽きることは滅多にありません。そして、新たな機能性蛋白質を獲得したウイルスは豚の体内で生存競争に勝っていくことでしょう。おそらく、現存しているウイルスはこのような過程を経て生き残ってきたのではないでしょうか。このライブ感が私たち研究者の心をワクワクさせてくれるのです。

(共同研究:麻布大学、日本獣医生命科学大学、テキサス大学、鳥取県家畜保健衛生所)